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体幹トレーニングの落とし穴

by Mark Rippetoe | March 11, 2018

Translated by 八百 健吾

[Japanese translation of "Core" Stability "Training"]

strength training stability training

週末のセミナー。私が「コア – Core」という言葉を一度も使わないのは、プライドの問題です。体幹の筋肉組織や、その安定性を話題に取り上げる際、参加者への配慮や私自身の評判への懸念もあり、細心の注意を払って「コア」という言葉を避けています。

素人筋、広告業者、医者、理学療法士、公認アスレティックトレーナー、パーソナルトレーナー、ストレングスコーチなど多くの人から「コア」と聞くのにウンザリしています。私なりの抵抗としてこの言葉を使わないようにしており、この記事の中で「コア」とカッコ括りで登場するのはそのためです。「コア」「コア」と、まったくイヤになります。

「コア」とは背骨を支える筋肉群の事で、腹筋すべて、3層の腹斜筋、後方脊椎筋群、骨盤底筋群、股関節屈筋群、さらには横隔膜、肋間筋によって構成されています。少し範囲を広く取り過ぎかも知れませんが、これらの筋肉は背骨の位置を保つ役割を果たします。

これは通常、お尻と脚で生み出された力を体幹を通して手に掛かる負荷へと伝える運動や、肩や背中に荷重の掛かるスクワットのトレーニング動作の際に、背骨を固定するという事を意味します。「コア」の筋肉は脊椎同士のつながりを正常に保ち、背骨を傷める事なく力を伝達する助けをします。これらの筋肉群は、すべてのスポーツに非常に重要です。私がこのテーマに興味を持っているのはそのためです。

ただし、「コアの安定」に特化してトレーニングするという考え方は理に適ったものではありません。長時間座った姿勢で生活する人の腰痛予防は別として(しっかりした「コア」の無い人はみな腰痛持ちでしょうか?)、この考え方はバカげた思い込みから来るもので、ベーシックなバーベルトレーニングにしっかり取り組んでいるアスリートには、まったく当てはまりません。

足が地面に踏ん張る力を、手などを通して負荷にあてがうスポーツにおいて、腰や体幹の筋肉群を使って背骨を安定させるというのは間違いの無い事実ですが、この力を伝えるための筋肉構造はなにも特別な物ではありません。

脚が力を生み出す「モーター」となり、背骨がそれを伝達する「トランスミッション」として機能します。大きなモーターがなければ背骨に大きな負荷は掛かりません。背骨は大切な役割を担いますので、その安定性も重要になります。この伝達システム全体に力が掛かると、モーターとトランスミッションは共に負荷に適応していきます。

スクワット、デッドリフト、プレス、オリンピックリフトといったバーベルトレーニングは体の力伝達システム全体を使うので、合わせてこの伝達システム全体を強化する事ができるのです。

しかし、バーベルを使わないトレーナーにはこの事が分からないでしょう。ノーチラスなどのマシーンを使ってのアイソレーション種目では、背骨や四肢骨を使ってバランスを取る必要はありません。このような視野のせまいトレーナーは、バランスボールに乗ってのアイソラテラル種目(体の片側のみを鍛える種目)のみが「コア」を鍛える術だと考えているかも知れません。もし唯一正しく行える種目が、背骨、お尻、その他の全身の筋肉を同時に使う必要のないものであれば、多方向ランジとバランスボールを使ったシーテッドマーチングこそが「眠れるコア」を呼び起こす最良の方法だと信じていても驚きではないですね。こういう十分な荷重のまったく掛からないヘンテコな運動は、車の後部座席から買い出しの袋を取り出したり、混み合ったバーでビールをこぼさずに歩いたりするのと同じような物で、鍛えられたアスリートの更なる強化に必要な負荷を掛けることはできません。

私の見方を説明するのに「コアの安定化」についての典型的な論文を取り上げたいと思います。マイケル・フレデリクソン准教授と、理学療法士タマラ・ムーア女史が「コア」強化トレーニングについて書いたもので、原本はコチラで見る事ができます。この二人の経歴を見ると、彼らが長距離ランナー育成の専門家である事が分かります。私は、二人が自らバーベルトレーニングをしたり、ランナーに薦めたりしていないと考えていますが、論文の冒頭でこんな不可思議な事を言っています。

「中・長距離走において、複雑な運動パターンの中で、バランス良く、かつ力強く体を前進させるには、筋力バランスのしっかりした基礎が不可欠です。しかし、オリンピックレベルにおいても、多くの選手の体幹筋肉群は十分に鍛えられていません。」

これは、なんだかおかしいですね。

複雑で、バランス、パワー、筋力を必要とする運動をオリンピックレベルでこなすアスリートが、これらの必須要素を満たしていないなんて事があり得るでしょうか?こういった運動が、筋肉の発達を生むだけの負荷無しに行えるとも、負荷への適応なしにこんな次元の競技力を得る事ができるとも考えられません。そんな著しく身体能力を欠いた選手がオリンピックレベルに到達する事など可能でしょうか?アスリートの能力評価が間違っているか、そもそもランニング競技は複雑でもなく、バランス、パワー、筋力も必要としないという事でしょう。

この人達の方法は、十分な負荷無しで「コア」を鍛えようとする物です。アイソメトリック種目においても、背骨のてこの作用に逆らう場合であっても、筋力とは「外部からの負荷に対応する力を生み出す能力」を意味します。しかし、彼らはプランクやシットアップなど従来の腹筋運動の変形版を不安定な場所で行おうとします。負荷は体重のみ、もしくはピカピカのメッキやカラフルなラバーが売りの軽いダンベルです。

負荷への適応とは、部位ごとに起きる物です。例えばショベルのハンドルは、手の甲ではなく手のひらにマメを作ります。ランナー、テニスプレイヤー、バレーボール選手、柔道家、その他どんなアスリートでも良いですが、彼らは不安定な場所で十分な負荷無しに競技を行うでしょうか?この手の運動が有効だと言えるのは、トレーニング経験の無い初心者くらいでしょう。

「ランナーに特化したトレーニング内容は、機動性から安定性、反射運動パターン、基礎運動パターンの獲得、そして最終的に負荷を上げて行く強化トレーニングへと移行します」

彼らは、すべてのランナーにこの考え方を用いているのでしょうか?まるで脳外科手術後の話のようです。こんなリハビリのような運動が必要なほど、ランナーが能力のないアスリートだとは考えられません。まず、彼らを動けるようにし、転ばないようにし、さらに次の動作を考えなくても良いようにし、そして片方の脚をもう片方の前に出すというような極めて基礎的な事をうまくできるようにする。そこでようやくレッグエクステンションマシーンの使い方を教えるワケです。

「この流れはすべてのアスリートに当てはまるわけではありません。各ランナーをしっかり分析し、個々のニーズにあったプログラムを作る事が大切です。」

彼らの弁護に、彼らは確かにこう付け加えています。しかし、大抵の場合あらゆるアスリートはランナーでもあります。ワケが分かりませんね。大切なのはこの先の部分です。

「腸脛靭帯症候群になりやすいランナーはお尻の外転筋が弱い事がよくあります。それが腸脛靭帯にストレスを掛ける要因になりがちです。そこでこういう症状のあるランナーのトレーニングプログラムでは、お尻の外転筋、特に外転を助ける後部中臀筋や、内転の速度を緩める事に焦点をあてる必要があります。他にも弱い筋肉や、動きに問題のある部位が認められれば、必要に応じて強化を図るべきです。」

ここが核心です。どうやらこの人達は人間の体がひとつのシステムとして機能するという事が理解できないようです。結果、そういう方法で鍛えるのが一番だという事です。まるでアーサー・ジョーンズ(ノーチラスの創始者)が彼らの脳の一部を取り去ってしまい、バーベルトレーニングが「コア」も含めた体全体を鍛えるという事を理解できなくさせたかのようです。現代の一般的なトレーニング行う人には、絶えずそれぞれの筋肉にアイソレーション種目があり、最終的なトレーニング決定をする理学療法士がその方法を教える事ができるという事です。

「コア」に特化したトレーニングを勧める人達に理解してもらうためにも、バーベルトレーニングの効果に触れたいと思います。例えば、200lbsのプレス、300lbsのクリーン、400lbsのスクワット、500lbsのデッドリフト。これらの数字は、リフティング選手向けの特別なトレーニングを必要とする程の物ではなく、まともな体重200lbsの男性アスリートであればこなせる物です。しかし、彼らの「コア」は、2kgのバランスボールを使ったスタンディングウッドチョップで精一杯の長距離ランナーよりも強いです。

400lbsのスクワットができるようになる過程で、すべての筋肉が鍛えられ、もっとも機能的に背骨を支える筋力が養われるのです。500lbsという荷重を床からもちあげる事が、背骨を安定させる筋肉を強くします。プレスで床と200kgのバーベルの間に体を置き、その間背骨を固定する運動、クリーンで300lbsのバーベルを肩まで引き上げる運動、脚からお尻、そしてバーベルへと効率良く力を伝達するためには背骨がしっかり固定されている必要があり、筋肉がこの役割を果たしています。こういった比較的レベルの高い事ができる筋力があれば、それより簡単な事はすべてこなせるのです。

バーベルトレーニングの良さは、各アスリートの「コア」やその他の筋力が上がるのに合わせて、負荷を正確に調節できるという事です。バーベル種目を正しく行えば、自然と体の可動域全体を動かしてトレーニングができ、その結果として可動域と筋力を同時に向上できます。また、これらのエクササイズはさほど難しくありません。あなたが恐らく勉強中の二次心肺蘇生法資格よりずっとカンタンです。私のトレーニング動作を分析する時間があれば、やり方を説明し実際にコーチする事ができるでしょう。

おっと、待ってください。私のオフィスにまであなたの反論が聞こえてくるようです。バーベルトレーニングをすると走るのが遅くなると思っているんですね。あぁ、選手がかわいそう。筋力を上げるとトラックや道で走る動作パターンでうまく力を伝えられなくなると考えているんですね。ランニングに限らず、テニス、バレーボール、柔道、その他どんなスポーツでも、400lbsでスクワットができるようになるまでの過程でできる「筋肉のしばり」のせいで、可動域をめいっぱい使うのに必要な機動性が失われると想像しているワケですね。それでも3lbsのオルターネイトシーテッドダンベルプレスは、なにか難解な奥義のような物で、アスリートの競技力を上げると信じているんですよね。それは、私のオツムじゃ分かりません。

まったく不思議でならないのは、自ら体を鍛えた経験のある人が、こんなトレーニング方法で実際に競技力を上げられると考えているという事です。

まったくトレーニング経験の無い初心者か、Bosuとか言うボールに乗って5lbsのダンベルカールをするだけで筋力強化できる異常な遺伝子の持ち主でもない限り、「コア強化」のトレーニングは完全に時間のムダです。

その時間にもっと効果的な方法で体を鍛え、コアを安定させる事ができます。本格的なバーベルトレーニングと、理学療法士の所でブラブラするだけという経験を両方持つ人が居れば、これが真実だと分かるでしょう。

なにより重大なのは、現代の「運動科学」などと言う戯言の大半がこんな風に広められているという事です。自身でトレーニングをした経験もないような人が、なんとなくうまく行きそうな方法を取り上げてダラダラと話しているだけです。彼らは初心者を使ってその方法を試します。初心者ですから、当然以前よりは良くなります。その結果を初心者仲間の読むジャーナルかインターネットにでも載せます。(その仲間たちも同じように書き込み、結果報告しあうワケです。)

時と共に、革新的なトレーニング方法が生まれます。以前から知っているような気がしますか?そうだといいな。貴重な時間をムダにする前に、しっかり判断するため学びましょう。


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