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筋肉痛で筋肉は強くならない

by Mark Rippetoe | May 20, 2018

Translated by 八百 健吾

[Japanese translation of Why Being Sore Doesn't Mean You're Getting Stronger]

pushing the prowler

ウェイトトレーニングをすると筋肉痛が起こります。それがイヤでトレーニングを避けたがる人は少なくありません。

ランニングでも筋肉痛は起こりますが、ウェイトトレーニングのように全身に痛みがくることはありませんし、程度もそこまでひどくなりません。ランニングの方が人気がある一因です。また、自転車をこいでも筋肉痛は起こらないと気付いて、運動不足解消のためウェイトトレーニングやランニングではなくサイクリングを選ぶ人もいます。

しかし、信じられないと思うかもしれませんが、筋肉痛になりたくて運動する人もいるのです。そういう人たちは筋肉痛を勲章のように捉え、筋肉痛がなければ伸びはないと考えています。

ちょっと説明しておくと、一般的に「筋肉痛」と言われる遅発性筋肉痛は、運動や肉体労働のあとに起こる現象で、慣れない身体の使い方をしたあとに筋肉痛が起こるのはごく自然なことです。なぜ筋肉痛が起こるかは、細胞レベルでの原因についていくつかの説があります。この記事では深く掘り下げませんが、運動中に発生する乳酸とは関係がありません。筋肉痛は筋肉の使われ方に応じて起こる炎症反応で、非ステロイド抗炎症剤(ナプロキセン、イブプロフェン、アス ピリンなど)が効くのはそのためです。

筋肉は収縮することで力を生み、「てこ」の集合体である骨格を動かします。各筋肉は骨につながっている点と点の間で「張力」という引っ張る力を生み出して骨を動かしています。筋肉はいろんな強さでこの付着点を引っ張りますが、筋肉が力を生むのには3種類の形態があります。 

1. コンセントリック収縮 

筋肉が短くなりながら張力を生み出すことを言います。ダンベルカールを思い浮かべると分かりやすいでしょう。ヒジが曲がり、ダンベルが肩に近付いていくとき、上腕二頭筋は短くなっています。

他に例えを挙げると、イスに座っている状態から立ち上がるときには、ヒザと股関節を動かす筋肉がコンセントリック収縮を起こします。 

2. エキセントリック収縮 

筋肉が長くなりながら張力を生み出すことを言います。ダンベルカールでダンベルを下ろすときやイスに座るとき、同じ筋肉が長くなりながら張力を生むことで、ダンベルや身体を下ろす動作をコントロールする働きをしています。これをエキセントリック収縮と言います。

ボディビルの世界では、このエキセントリック収縮はよく「ネガティブ」と呼ばれます。 

3. アイソメトリック収縮  

筋肉の長さを変えず、姿勢をコントロールすることを言います。イスに座るときには、ヒザと股関節が動いて身体を下ろしていく間、背中の筋肉はアイソメトリックな働き方をすることで脊椎を同じ形に保っています。床に対する背中の角度は変わるかもしれませんが、背中とお腹まわりの筋肉によって、脊椎を構成する椎骨は動くことなく正しいつながりが維持されます。 

自転車 トレーニング エキセントリック収縮 筋肉痛筋肉を使うことで起こる適応が運動の基礎であり、身体はそれぞれの種類の筋肉の収縮に適応しなければいけません。

スクワットのように重要性の高いトレーニング種目には、エキセントリック、コンセントリック、アイソメトリックとすべての要素が含まれます。運動の種類によっては、自転車のように脚のコンセントリック収縮だけを使うものもあります。自転車では、ヒザを伸ばすときに短くなる筋肉は、反対のヒザを伸ばすときにも収縮して抵抗するなんてことはありません。そんなバカな自転車のこぎ方はないでしょう。つまり、自転車で交互に起こるヒザ関節の伸展はコンセントリック収縮のみだということです。 

タネ明かしをすると、筋肉痛はエキセントリック収縮がもとになって起こります。コンセントリック収縮では筋肉痛は起こりません。アイソメトリック収縮では、完全にコントロールしきれず、多少なり筋肉の長さが変わった場合にのみ筋肉痛が起こります。

上にも書いたようにこの記事で詳細には触れませんが、これは筋線維の収縮する部分で細胞レベルで起こる変化に起因しています。 

つまり、一定程度のエキセントリック収縮をともなう運動で筋肉痛は起こり、「ネガティブレップ」にこだわれば特にひどい筋肉痛を起こすことができます。

例えばベンチプレスでは、自分で挙げられるギリギリまで行ったあと、トレーニングパートナーにバーベルを挙げるのを補助してもらい、自分はできるだけバーベルをコントロールしてゆっくり下ろすようにします。これを2〜3レップも繰り返せばまともに力を出せなくなります。バーベルを挙げるのはほぼパートナーに頼ることになり、バーベルを下ろすスピードもコントロールできなくなります。

これでパートナーはクタクタになり、自分はひどい筋肉痛を味わうことができます。 

そり トレーニング 筋肉痛 エキセントリック収縮自転車やそりを押すようなエキセントリック収縮があまり起こらない運動では、筋肉痛は起こりません。 サイクリストは自転車で坂道を登ることで脚の筋力が向上しますが、大腿四頭筋の筋肉痛を経験することはほとんどありません。しかし、このサイクリストにスクワットをさせると、彼は強烈な筋肉痛に襲われます。これは彼がスクワットのエキセントリック収縮に適応していないからです。自転車で坂を登る中で、「ウェイトを下ろす」という運動をしてこなかったので、初めてスクワットをすると猛烈にこたえるわけです。

筋肉痛はあらゆるエキセントリック収縮をともなう運動で起こり、実際にエキセントリック収縮をした筋肉に痛みが出ます。筋肉痛はその運動に身体が適応するまで続き、痛みの出方は予測できるものです。

あらゆる種類のスクワットで大腿四頭筋のエキセントリック収縮が起こります。そのため、スクワットには大腿四頭筋の筋肉痛が付き物です。しかし、例えば週3回スクワットを続けると、バーベルの重量が上がっていてもひどい筋肉痛は出なくなっていきます。これはエキセントリック収縮への適応が進んでいるということです。

トレーニング経験の長い選手が、挙上重量を上げるためのプログラムを実践しているような場合、目立って強い筋肉痛が出ることはありません。ただし、スクワットのプログラムを変えて1セット5回を10回にしたような場合、エキセントリック収縮をともなう運動量が増えることで筋肉痛が強くなることは考えられます。

バーベルの重量が重いか軽いかは問題ではありません。十分に適応できていないエキセントリック収縮をともなう運動を、一定以上のボリューム行うと筋肉痛は起こります。

Bodyweight squats

自重スクワットを100回すると猛烈な筋肉痛が起こるのはそういうことです。また、スクワット100回をたまにしかしないと適応は進まないので、スクワット100回するたびに猛烈な筋肉痛を味わうことになります。

自重スクワットの負荷はゼロに等しいので筋力が上がることはありませんが、ネガティブレップ100回することで数日間まともに歩けなくなるほどの筋肉痛を起こしたりするのです。

週2回くらいで続ければ、筋肉痛は起こらなくなります。それでも段階的に負荷を上げていくわけでもないので筋力は上がりません。

ここが問題です。筋肉痛になっても筋力は上がらないのです。筋肉痛はただ痛いだけです。筋力が上がるというのは、より大きな力を生み出せるようになるということです。要するに、筋力を上げるには挙上重量を上げなければいけません。

筋肉痛はエキセントリック収縮をともなう運動を行ったときの副作用でしかありません。その運動が、段階的に大きな力を生み、より大きな重量を挙げることを必要としなければ、その運動で筋力を上げることはできません。歩けなくなるほどの筋肉痛が出ても関係ないのです。

自重スクワットを高回数くり返せばひどい筋肉痛になります。最近はやりの極端なフィットネスムーブメントに乗っかった人の中には、四六時中筋肉痛でいることが普通になっている人がたくさんいます。

ワークアウトの内容はランダムに決められることが多く、筋肉痛を和らげるのに必要な適応が進みません。それでも、友人グループと一緒に行うワークアウトは楽しく生産的だと感じる人が多くいます。ワークアウトで筋肉痛になることは、キツいこともやり遂げられるという自分の頑張りや勇気、さらにコミュニティの一員である証として捉えられます。そして、その頑張りの先ある筋肉痛が目的にすり替わってしまいます。

これはまったくもって的はずれです。筋肉痛は筋肉の炎症です。そして炎症はその組織だけの問題ではありません。あちこちの筋肉に筋肉痛が出るのは身体全体におよぶ炎症が起きているということです。

関節リウマチのように身体のあらゆる機能調整が十分に適応できないストレスで、心臓の問題、睡眠時無呼吸症候群、高血圧、血管系の疾患、呼吸器の炎症、気管支炎といった問題の引き金になりうるものです。

トレーニングをする上で、ときどき筋肉痛が出るのは自然なことですが、何週間、何ヶ月、はたまた何年という長いスパンで慢性的に全身に炎症があるのは実質的に病気と同じで、決して健康に良いことではありません。

私たちの身体はこんな状態で機能するようにできていません。私たちの身体は飢餓に適応できないのと同じように、慢性的な筋肉痛にも適応できないのです。若い人はしばらくなら大丈夫かもしれませんが、身体に負担は掛かります。

もし、これまで「筋肉痛は前進」というイメージを持ってトレーニングをしてきたなら、考え直しましょう。筋肉痛はトレーニングには付き物で、ときに避けて通れないものですが、決して目的になるべきものではありません。


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