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腹筋

by Mark Rippetoe | December 24, 2017

Translated by 八百 健吾

[Japanese translation of Abs]


look at me abs

ウェイトトレーニングの誕生以来、腹筋ほど世界中で実際のトレーニングに集中するのを妨げている物はありません。

私自身も含めて、腹筋ほど多くの人がトレーニングにムダな時間を費やしたり、ケガを招いたりしている物はありません。他に強いてあげれば上腕二頭筋くらいでしょう。

もう少し言うと、腹筋への執着だったり、体の構造上の腹筋が果たす役割の理解不足だったり、腹筋を鍛える方法をカン違いしていたりするのがジャマをしているのです。

運動科学などの型にハマったタイプや、パソーナルトレーナーや、それこそ見た目を追いかけてトレーニングをする人すべての反対にあう内容が出てくると思いますが、それで構いません。

思いの丈を綴る中で、この記事を読む人の役に立つことがあるかも知れません。

 

まず、ここで「腹筋」とは、腹部を取り巻く筋肉群のことを言います。一般的にシックスパック(私は絶対に使わない言葉ですが)と言われる腹直筋のことだけではありません。ほとんどの人で低い体脂肪率が最も視覚的に現れ、目に見える筋肉の区切りがヒトと環形道物との遠いつながりを思わせる部分です。

みなが「コア」と言うところで私は「腹筋」という言葉を使います。私は小難しく、付き合いにくいひねくれ者で、販売目的のメディアなどと同調しません。私は「腹筋」と覚えてきたし、特に改める理由も見当たりません。

ということで、この記事の中で「腹筋」は、腹直筋に加えて、腹部側面の内腹斜筋・外腹斜筋に、腹横筋と腹腔下部の筋肉を指します。

 

次に、腹筋は圧縮荷重やせん断荷重が掛かった状態で、脊椎のつながりを維持して背骨を安定させます。二足動物において、これが腹筋の根本的な役割です。

まるで異性を惹き付けたり、周囲の羨望を集めるための物のような扱いを受けていますが、最近の社会が生んだこういう歪んだ見方は特に役に立ちません。

 

仕事をするとき、トレーニングをするとき、背骨を安定させるのは極めて重要です。通常、股関節と膝関節を伸ばす筋肉で生み出された力は、腕や手を通して外部へと伝えられます。これは、力を生み出す筋肉と、その力が伝えられる先をつなぐ橋渡しを背骨が行っているということです。

この橋は強固でなければなりません。背骨に沿って力が伝えられる途中で吸収されてしまうことなく、すべて目的の場所に届けられるだけの安定性が必要です。

 

 腹筋 スクワットもしくは、背骨をレンチのように考えることもできます。

一般的に使われる工具を見れば、こういったレンチの持ち手にゴムが使われることがないのはすぐ分かります。レンチの仕事はボルトを回す力を伝えることですが、フニャフニャの部品ではしっかり力を伝えることができません。

背骨を支える筋肉群の役割は、脊柱を動かないように固定し、力が効率よく伝えられる状況を作り出すことです。ここで本来屈曲性のある脊柱は、焼き戻し鋼のシャフトのように機能し、政治家の決断のようにブレることがあってはいけません。

 

デッドリフトを例に考えてみましょう。まず、腰を伸ばして背中の反りを作り、深く呼吸をして、体中を引き締めてから、バーベルを地面から引き離します。

「背中の反りを作る」のは、脊柱起立筋の仕事です。腹筋は「体中を引き締める」ところで動員されます。ここで腹筋の役割は、脊柱起立筋によって作られた姿勢を、前からと横から固めることです。背中の筋肉が姿勢を作り、腹筋がそれを補強するのです。

非常に柔軟性の高い人は、脊柱の過伸展が問題になることがあるので、そういう場合には腹筋の収縮をより意識する必要がありますが、私たち一般人は、脊柱起立筋を引き締めて腰椎を伸展させると、ほとんどの場合正しいプルの姿勢に入ることができます。

 

この腹筋を引き締めることで、体幹部が実質的に、背骨を包んで支える強固なシリンダーに変わります。収縮した腹筋と背骨に沿って、流体性力学的に非圧縮性の内臓部を通して、油圧ポンプのように力を伝える役割を果たすのです。

加重による力のモーメント(回転させようとする力)がリフター本人の姿勢を保つ力を超えない限り、背中の筋肉の収縮によって生み出され、この液状媒体を通して伝達される力が背骨の姿勢をがっちりと保持してくれます。

 

実際にこの仕事を果たすには、これらの筋肉はアイソメトリックな働き方をすることになります。

もう知っている人が多いと思いますが、念のためおさらいしておきましょう。負荷に対して筋肉は骨を動かして3通りの働き方をします。

負荷が掛かった状態で筋肉が収縮し短くなるのをコンセントリック・コントラクション(短縮性筋収縮)と言います。

筋肉を伸ばそうとする負荷に対し筋収縮で反対の力を生み出し、筋肉が伸びる速度をコントロールするのををエキセントリック・コントラクション(伸張性筋収縮)と言います。

さらに、負荷が掛かった状態で一定の長さを保ち、骨を動かさない場合をアイソメトリック・コントラクション(等尺性筋収縮)と言います。

筋肉の部位によって、それぞれの主要な働きはコンセントリック/エキセントリックかアイソメトリックかに分かれます。

 

脚と腰まわりの筋肉群の根本的な役割は、いろいろな動きの中で膝関節と股関節を開いたり閉じたりすることです。つまりこれらの筋肉の主な動きはコンセントリック/エキセントリックだと言えます。これらの筋肉は、まっすぐ立っているときアイソメトリックな働きをしていますが、「まっすぐ立つ」というのはヒトの体が適応した重要な動作ではありません。

 

逆に、腹筋の最も重要な役割は背骨を安定させることなので、アイソメトリックな働き方をします。腹筋が骨同士のつながりを動かさずに維持するには、姿勢が変化しないように力を生み出す必要があります。背骨を安定した状態で維持するために、どんな負荷が掛かっていても腹筋は同じ長さを保たなければいけません。つまり腹筋は根本的にアイソメトリックな働き方をする筋肉だということです。

腹筋も寝転がった状態から背骨を曲げることで、コンセントリック/エキセントリックの動きを作りシットアップをすることはできます。しかし、これは腹筋が数百万年掛けて発達した本来の働き方ではないのです。ジョー・ウィダー氏がシットアップを考案したのは1980年。長く受け継がれてきたヒトの体の筋肉の構造を変えるにはあまりにも短い時間です。

腹筋は背骨を安定させるためにある。このことは、私たちが腹筋の鍛え方を考える上で重要な関わりを持っています。

 

腹筋は本来アイソメトリックな働き方をするものなので、腹筋がアイソメトリックな働き方をするトレーニング種目で鍛えることができます。

バカバカしいほど当たり前に聞こえるかも知れませんが、ほぼすべてのコーチはコンセントリック/エキセントリックパターンの腹筋種目をプログラムに加えます。

スクワット、デッドリフト、ショルダープレス、クリーン、スナッチ、チンニング、バーベルカールといった種目ではすべて、体幹を安定させることが必要不可欠ですが、それだけでは腹筋を十分に鍛えることができないと考えているということです。私はこれには反対です。

 

まず、これらの種目は単独で行うわけではありません。1日のワークアウトの中でこれらを数種類組み合わせて行います。

初心者のプログラムは、こういったバーベル種目を、背骨を安定させた良いフォームで行うのが大部分を占めるので、腹筋は存分に鍛えられシットアップを盛り込む必要はないと思います。

特に高重量を扱うスクワットとデッドリフトの本番セットでは顕著ですが、筋力が上がるほど背中をまっすぐに保つことが重要になっていきます。

初めは安全な軽いウェイトを使うので大きな問題ではありません。トレーニング経験を積み、重量が200lbs(約90kg)、300lbs(約135kg)と上がっていくに従って、正しくスクワットやデッドリフトを行うと腹筋に強烈な負荷が掛かるようになります。

重量がこのレベルを超えるあたりから、多くの人がベルトを使うと腹筋をよりしっかり収縮させることができると感じるようになります。初めてベルトを使ってスクワットをすると、腹筋の疲労感が強くなるのはこのためです。

 

高重量のショルダープレスでは、バーベルと地面の間の体全体のつながりの中で背骨を安定させ、過伸展を防ぐのに腹筋が非常に重要です。

チンニングでは背骨に対する圧縮荷重はありませんが、引っ張る力が掛かり、これをコントロールしてセット終了まで姿勢を維持する必要があります。高回数のチンニングでは、どうしても腹筋が疲れてアイソメトリックな姿勢維持が難しくなり、レップごとにエキセントリック収縮で伸び、コンセントリック収縮で短く戻るようになります。これが腹筋の筋肉痛を生みます。

筋肉の収縮サイクルの中で、筋肉痛を起こすのはエキセントリック収縮なので、スクワットやデッドリフトでは腹筋に筋肉痛が出ないのです。限界ギリギリのショルダープレスで腹筋に筋肉痛が出るのも同じ理由です。

 

多くのコーチが筋肉痛とトレーニング効果を関連付けて考えており、筋肉痛が出ないとトレーニング量を増やそうとするので、このメカニズムを知っておくのは重要です。

おそらくここが問題の核心でしょう。腹筋は本来のアイソメトリックな働きをする中でとてもハードに鍛えられていますが、エキセントリック収縮がなければ筋肉痛は起こりません。

腹筋に筋肉痛が出れば、負荷の掛かった状態で腹筋が伸びたということで、高重量のスクワットやプル種目のあとに筋肉痛が出なければ、腹筋が本来の背骨を安定させる役割をしっかり果たしたということでしかありません。

私は、スタンダードなバーベル種目は、それだけで十分に腹筋を鍛えることができ、特に初心者には腹筋のトレーニング種目を追加する必要はないと考えます。

 

さらに言うと、シットアップはおどろくほど多くのトレーニーにとって逆効果になる可能性があります。シットアップをするときは、角度の付いたベンチや地面に水平に寝転がり、腹直筋をコンセントリック収縮させ、胸郭にある起点と恥骨に接合する終点の距離を縮めて背骨を曲げます。そして、肩をベンチや地面に降ろしていく際にエキセントリック収縮をしながら筋肉が伸びていきます。

 

シットアップの動作にはバリエーションがあり、いたるところで実践されています。

太ももに対する肩の距離が変わらないバージョンは「クランチ」と呼ばれますが、仕事量を測ることができず使えない種目です。

クランチでは、腹筋の収縮が背骨を曲げるだけで動作は終わります。ヒジがヒザに当たる所まで持って行くときのような姿勢の変化はほとんどありません。まったくトレーニング経験のない人にとってはキツいかも知れませんが、背骨を曲げる以上の動きがなければ、一気に効果のない種目になってしまいます。

トレーニング指導をする中で、何年も欠かさずクランチを続けてきたのに、まともなシットアップを3回もできない女性を見てきました。

 

また、人によっては背骨を曲げること自体が問題になる可能性もあります。脊椎すべり症のような明らかな症状がある人は、背骨の曲げ伸ばしができないことも多くあります。

私のジムには、Ⅱ度の脊椎すべり症を抱えるメンバーがいます。いまも外科医の診療を受けていますが、定期的なトレーニングの許可が出ているときには、痛みやその他の症状もなく200lbs(90kg)以上でスクワットとデッドリフトをこなせています。しかし、シットアップとバックエクステンションはまったくできません。

長期間休まずトレーニングを続けることができた期間に、じっくりと観察を続けることで気付いたことですが、シットアップとバックエクステンションを真面目にこなした期間、彼はしつこく腰痛に悩まされ、逆に基本のバーベル種目のみ行う許可が出た時期には痛みが出ませんでした。

彼の正常でない背骨を曲げ伸ばしすることで、椎間板を押しつぶすような形になっていたのに対して、アイソメトリックな鍛え方をすることですべてを正常な状態に保つことができたのです。

 

私も長く腰痛に悩まされてされてきましたが、最近のある経験をきっかけに、私自身まちがった方法で腹筋の筋力を保とうとしてきたのが原因かも知れないと考えるようになりました。

私のジムではベンチを使ったシットアップを取り入れていますが、2ヵ月ほど前、私はジョン・ウェルボーンにそのやり方を見せていました。

 

Starting Strength シットアップベンチ太ももが背中に対して90度になるようにベンチに寝転がって、ヒザの裏をローラーに当て、スネを別のローラーの下に入れて固定します。

これでとても可動域の短いシットアップができるようになります。股関節を曲げた状態になるので、股関節の屈筋群をうまく動作から外すことができます。

彼はこのベンチを見たことが無かったので、25lbsプレートを頭の後ろに抱えて(この種目の適切な加重方法)10回やって見せました。

私はこのベンチで高重量を使ったことがあり、25lbsは楽にこなせる重量でしたが、この種目をするのは1年ぶりくらいでした。これまでの経験から、この日私は50lbsで10回を問題なくこなせると分かっていました。つまり、スクワット、プレス、プル、チンニングのみ行ってきて、シットアップ無しで腹筋に十分な筋力があったということです。

 

しかし、実際に楽にこなしてベンチを離れ、メインのウェイトルームに戻ってスクワットをしようとしたところ、腰がイカれていました。とても酷かったわけではなく、腹筋を思い切り引き締めて予定どおり315lbs(約143kg)x 10回をやり切りましたが、腰の調子がもどるまで数日掛かりました。

椎間関節の問題とは何十年と付き合っていますが、この1年間は特に痛みも出ていませんでした。背骨の曲げ伸ばしとの直接的な相関関係に気付いたのはこれが初めてだったと思います。

 

誤解のないようにしておきたいのですが、シットアップはすべての人に有害だと言っているわけではありません。私も完璧な人間ではありませんが、そんな間違いは犯しません。

私たち年配リフターには多いですが、何度も再発する腰痛に悩まされている人にとっては、シットアップは不必要なだけでなく、問題を悪化させる要因になるかも知れないということです。

おそらく、すでに関節炎レベルのダメージがある状態で、脊椎をたくさん動かすのは許容範囲を超えてしまうのでしょう。そして、スクワットやデッドリフトで姿勢を支える働きで腹筋を十分に鍛えられることを考えると、シットアップで腹筋を強化して背骨を安定させるという一般常識を疑ってみるべきかも知れません。

それを踏まえて、この90度シットアップベンチは、あらゆるジムで腹筋を鍛える最良のツールだと言えるかも知れません。

アイソメトリックではありませんが、可動域は短いです。しぶとく人気のあるローマンチェアなどに代表される極端な可動域よりも、背骨を曲げることに関しては短い方が良いです。

(私はローマンチェアを使うと決まって腰を悪くしてきましたし、誤った使い方が原因での横紋筋融解の話をよく聞くほど腹直筋を徹底的に傷めてしまうようです。もし、ローマンチェアを使うなら、ゆっくりしたテンポで動作をコントロールするようにしましょう。)

90度シットアップベンチの短い可動域は、腹筋本来の働きに近い動きを再現しつつ、安全に加重負荷を上げていくことができます。アイソメトリックの腹筋トレーニングに機能的に近いだけでなく、高重量のバーベル種目を行う上級トレーニーが腹筋のトレーニングメニューを追加して安定性を高めたい場合にローマンチェアよりずっと使える物です。

この手の腹筋に特化したトレーニングは、メイン種目に加えて仕上げとして行うもので、トレーニングキャリアの中で正しいタイミングで取り入れると多くのトレーニーに有効です。

 

しかし、どんなフォームを使ってもシットアップで3年も腹筋の筋力を上げ続けられる人はいません。特に加重シットアップの記録という意味では、私のジムメンバーの記録を正確に覚えていれば、1年も伸び続けた人はいないでしょう。

(ここでは連続シットアップの世界記録を争っている人たちの話をしているワケではありません。現在はSkip Chaseの24時間で110,915回という記録が最高ですが、こういう高回数は、全身のあらゆる筋肉にうまく負荷を分散させるコツを覚えるのがキモで、10,000回を超えるあたりからは退屈との戦いになるだけです。)

私の経験では、はじめ数ヶ月間加重重量を上げていくことができますが、その後伸びなくなっていきます。この段階で目的は達成できていると言え、その後は高負荷のトレーニングを続けていれば腹筋の筋力は保たれる傾向があります。

 

ただ、大部分のリフターは、600lbs(約272kg)はおろか500lbs(227kg)でも一生スクワットをすることはありません。こういう一般人には通常のバーベルトレーニングで掛かる負荷で十分に腹筋を鍛えられます。安全に、かつ本来の働きにあった形で腹筋を鍛えられ、さらに負荷の掛かった状態での背骨の曲げ伸ばしで脊椎関節を傷める心配もありません。

腹筋に特化したトレーニングでは、ある程度まで筋力を上げることができますが、あくまでもスクワット、プレス、プル系種目で得られるトレーニング効果の補強です。

腹筋のトレーニングを取り入れたいなら、必要なタイミングを待ち、短い可動域で加重ができる種目を選び、筋力アップに適した回数設定(レップ数・セット数)をしましょう。筋力の伸びが止まったら、ときどき高重量でやれば十分です。

しつこい腰痛に悩まされているリフターには、逆にシットアップ無しで6ヵ月過ごしたらどうか試すのをオススメします。おそらく嬉しい驚きがあり、筋力が落ちてしまうということもないと思います。


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